<昭和40年代後半、1970年代の仙台駅>
「俺だよ、健介だよ。」
健介はぶっきらぼうにドアの向こうに呼びかけた。
「ああ、あなたなの、こんな遅くにどうしたの?」
ドアを開けずに理香が応じた。
「ちょっと話したいことがあるんだ。」
<いつもなら直にドアを開けてくれるのに、おかしいな...。>と思いながら健介が言った。
「そう、じゃぁちょっと待って。」
気のない返事が返ってきた。
やがてドアが開き理香が現れた。
艶のある背中まで伸びた黒髪、目鼻立ちのはっきりとした端正な顔、しなやかな腕、衣服の中に隠されている豊満な胸の膨らみ、優しく抱かれるギターのようなウェストの窪み、ミニスカートで僅かに覆われたすらりとした足、心地よい体臭、今日は理香の容姿と肉体そのものに強い色香を感じて健介は胸を熱くした。
「ちょうど私も話したいことがあったの、外で話そう。」
「部屋には入れてくれないの?もう時間も遅いし、これからどこかに行ってたんじゃ話す時間もありゃしない。」
理香の言葉に不服そうに健介が言った。
「こんなに遅く来るあなたが悪いんでしょう。」
冷ややかな目つきになって理香が応じた。
「だってどうしても話したいことがあったんだよ。」
言い訳がましいことを健介は言った。
「まあいいわ、じゃぁ入って。」
何かを決心したように理香は健介を招き入れた。
健介は手狭な4畳ほどのキッチンを通り抜けて八畳の見慣れた理香の和室に落ち着いた。
その部屋には、テーブル、机、箪笥、サイドボード、本棚、テレビ、ラジオ等々が意志を持つかのように配置され、その存在を主張しているように健介には思えた。
また、それぞれが美しく輝いており、女の部屋でなければ味わえない、独特の清潔感を漂わせていた。
本棚には大正ロマンを代表する画家、竹久夢二の美人画集が並んでいた。
「今、コーヒーを入れるわ。」
キッチンで湯を沸かしながら理香が言った。
「この部屋に入ったのは何日ぶりかな?」
窓に掛けられたブルーのカーテンを背に、キッチンと向かい合わせになり、部屋の中央に置かれたテーブルを前に座りながら健介が言った。
「一ヶ月ぶりくらいじゃない、前に帰って来たのは六月の初めだもの」
キッチンから理香が言った。
「コーヒーなんかいいからこっちに来いよ。」
なかなか自分の傍に来ようとしない理香に、じれったそうに健介が言った。
「少し待ってなさい、甘えんぼうさん。」
次に起こるであろうことを判っているかのように理香が言った。
理香は入れ終わったコーヒーを盆にのせてテーブルまで運んで来た。
「理香〜」
急に名を呼んで、健介はやっと自分の傍まで来た理香の手を取って自分の方へ引き寄せようとした。
「これを飲んでから」
理香は健介から逃げるようにして、テーブルに置かれた二つのコーヒーカップを見つめながら𠮟りつけるように言った。
健介はコーヒーを口に運びながら理香をじっと見つめていた。
彼は魅力的な愛する女を前にして、抑えがたい欲望に喘いでいた。
燃えるような情熱が彼の理性の鎖を一つ一つ断ち切って行く。
「理香〜、愛してるよ」
そう言って、彼は理香を抱き寄せ、その唇に長く深い接吻(くちづけ)をした。
蕩けるような陶酔感が彼を虜にした。
理香は彼を拒まなかった。
彼の手が徐々に衣服の下に滑り込み、理香の生肌の感触を愉しみ始めた。
ボタンの弾ける音が軽く響いた。
彼は優しく理香を組み敷いて行った。
彼の手はマシュマロのような理香の乳房を愛撫していた。
熱く波打つものが彼の肉体を燃やした。
彼の手が理香のミニスカートの下をまさぐろうとしたとき、理香はそれを手で制して、「私がしてあげるわ。」そう言って恰も彼のしもべのように彼の波打つ息吹を優しく口に含んだ。
一瞬の燃える閃光が彼の肉体を貫き、情熱の血潮が弾けた。
気怠い爽快感が彼を幸福な気分にした。
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今夜はここまでにしておきます!