10日ほど病で入院するはめになり、病院の個室に缶詰になりました。
つくづく健康の有難味が身に染みましたが、夕暮れ時に窓の外を眺めると蝙蝠が3羽忙しなく舞っています。窓の外は畑で杉の大木の近くを舞っていました。
どこを塒にしているのか?農家の屋根裏あたりが一番可能性がありそうです。
蝙蝠を意識して観たのは何年振りだろうと考えていました。それはもう本当に昔のことで、5歳か6歳くらいのときでしょうか、夕暮れに田圃に悪ガキが集まり、上空を舞う蝙蝠目がけて長い竹竿を精一杯円を描くように振り回すのです。運がいい時は蝙蝠が竹竿に惑わされて地上に落下します。そんな昔の思い出が蘇ります。
それ以来、蝙蝠が舞うのを観たのはこの日が最初のように感じています。
まだ自分の郷土の環境も捨てたものではない、と実感する瞬間でもありました。
もっとも蝙蝠は東京のど真ん中の欄干の下あたりにもいると聞いているので、比較的不遇の環境には強いのかもしれません。
病にあって昔の郷愁に浸れる時間が持てただけでも良しとしなければならないでしょう。蝙蝠を落そうなどと幼き狂気はありましたが、生きとし生けるものの自然の営みは今よりもずっと優しかったように思います。
少しでも近くで観てみようと、病院の裏口まで行ってみました。入院患者さんが何人か語らっていました。「蝙蝠が舞ってますね」と話しかけると、「あれは蝙蝠ですか」と初めて蝙蝠を観た様子。あるいは観てはいるが正体が分からなかったのかもしれません。30代の大人に見えましたが、蝙蝠を知らないとは意外でした。逆説的には年を取った自分がいるという事実が強調されたように感じてしまいました。
雨の日以外は蝙蝠も毎日の日課として夕暮れの空を楽しんでいます。